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熊本地方裁判所 昭和57年(ワ)900号 判決 1983年5月30日

原告

宮崎貴司

被告

森山長義

ほか一名

主文

1  被告末利は原告に対し、一五七万六、二三〇円及びこれに対する昭和五七年九月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告の被告長義に対する請求及び同末利に対するその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用中、原告と被告長義との間に生じたものは、原告の負担とし、原告と被告末利との間に生じたものは、これを七分し、その六を原告の、その余を被告末利の各負担とする。

4  第1項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは各自、原告に対し、一、一〇〇万円及びこれに対する昭和五七年九月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故

原告は、次のとおり交通事故により傷害、後遺症を受けた。

(一) 発生年月日 昭和五五年七月二七日午前四時頃

(二) 場所 熊本県宇土郡三角町大字大田尾三角北小学校前バス停先国道五七号線

(三) 事故車 普通乗用自動車(熊五六の八四五五)

(四) 運転者 被告末利

(五) 態様 居眠り運転のため、原告が同乗していた事故車をガードレールに衝突

(六) 傷害 第一二胸椎圧迫骨折、すい臓外傷、左肋骨骨折

(七) 後遺症 胸腰椎移行部(一一級相当)

2  責任原因

被告らは前記事故車を保有し、自己のため運行の用に供していたので、自賠法三条により原告の蒙つた後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 治療費 一四二万九、七六〇円

昭和五五年七月二七日から同五六年六月一三日までの済生会熊本病院への入通院治療費(内通院実日数一六日)

(二) 付添看護費 九万三、〇〇〇円

付添看護日数三一日間、一日につき三、〇〇〇円

(三) 入院雑費 四万八、五〇〇円

前記入院九七日間、一日につき五〇〇円

(四) 後遺症による逸失利益 一、二三二万八、一七〇円

(1) 症状固定時の年齢 二〇歳

(2) 就労可能年数 四五年(二二歳より就労)

(3) 右ホフマン係数 一六・一二二

(4) 労働能力喪失率 二〇パーセント

(5) 原告の労働能力の評価額 三八二万三、四〇〇円(昭和五四年度賃金センサス大学卒平均賃金)

(6) 計算

382万3,400円×16.122×0.2=1,232万8,170円

(五) 慰藉料 四四〇万円

傷害によるもの 二〇〇万円

後遺症によるもの 二四〇万円

(六) 弁護士費用 一〇〇万円

4  損害の填補

自賠責保険より 一二〇万円

社会保険事務所より 一八万二、三二四円

被告らより 四三万二、二三六円

5  よつて、原告は被告らに対し、各自前記損害額から填補額を控除した一、七四八万四、八七〇円を請求し得るところ、本件事故がいわゆる好意同乗中の事故であつたことを考慮して、内一、一〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年九月二日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

1  第1項の(一)ないし(五)は認めるが、(六)、(七)は不知。

2  第2項は、被告末利が事故車を保有し、自己のため運行の用に供していたことは認めるが、その余は否認する。

3  第3項は争う。

後遺症による逸失利益の判断について、いわゆる労働能力喪失率表はあくまで参考資料にすぎなく、運動機能障害の程度、被害者の年齢等を勘案して具体的に認定すべきである。これを本件についてみると、原告は、済生会熊本病院医師有村一盛作成の診断書に基づき胸腰椎移行部の後遺障害が認められるところから、背柱に変形を残すものに該当するとして後遺障害等級第一一級と判断されているが、右診断書によれば、原告の運動機能は、前屈四五度、後屈二〇度、右、左屈各四〇度、右、左回旋各三五度であり、これはほぼ正常値の範囲内であり、運動機能に障害があるとは考えられないから、右事情を斟酌して原告の労働能力喪失率及び期間を算定すべきである。

なお、昭和五五年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計の男子二〇ないし二四歳大卒労働者の年間給与額は一九二万六、八〇〇円であるから、逸失利益はこれを基礎として算定すべきである。

4  第4項は認める。但し、自賠責保険からは更に二九九万円が支払われている。

5  原告も自認するとおり、原告は、いわゆる好意同乗者であるから、損害額の算定にあたつては、右事情を十分斟酌すべきである。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故

請求原因第1項の(一)ないし(五)の事実は当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果及び右尋問の結果によりいずれも成立を認め得る甲第一ないし第三号証によれば、同項(六)、(七)の事実を認めることができる。

二  責任原因

1  被告末利の責任

被告末利が事故車を保有し、これを自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがないから、同被告は自賠法三条により原告の蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。

2  被告長義の責任

いずれも成立に争いのない乙第七、八号証に被告末利本人尋問の結果によれば、事故車は、被告末利が昭和五五年二月に代金五五万円で買受け、内二〇万円を下取車で、残金三五万円を昭和五七年二月までにいわゆるローンで分割して支払つたこと、被告末利は、事故当時一八歳であつたが、郷里の中学校を卒業後、親元を離れ、じ来熊本市内にあつて、板金塗装工や左官をして生活を維持してき、右代金もすべてその収入から支払い、従つて、事故車も専ら自己のために使用していたこと、被告長義は、被告末利から頼まれ、右ローン契約の保証人となつたほか、強制保険加入につきその名義人となつたが、事故車の購入、運行については一切関与していないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告長義は、事故車につき何ら運行支配も運行利益をも有していないといわざるを得ないから、同被告は自賠法三条の責任を負わないというべきである。

三  損害

1  治療費 一四二万九、七六〇円

原告本人尋問の結果によりいずれも成立を認め得る甲第四号証の一ないし一二により、原告主張のとおりこれを認めることができる。

2  付添看護費 九万三、〇〇〇円

前掲甲第一号証、弁論の全趣旨により、原告主張のとおりこれを認めることができる。

3  入院雑費 四万八、五〇〇円

入院日数は前記のとおり九七日であるから、原告主張のとおり、これを認めることができる。

4  後遺症による逸失利益 二八五万八、四四一円

(一)  症状固定時

前掲甲第三号証によれば、原告の症状固定時は昭和五六年六月一三日であるから、この日が労働能力喪失期間の起算点となる。

(二)  労働能力喪失の率と期間

前記のとおり、原告は、後遺障害等級別表一一級の認定を受けたが、前掲甲第三号証によれば、右は同表一一級五号の「背柱に変形を残すもの」に該当するものとして認定されたこと、しかしながら、右後遺症にも拘らず、原告の運動機能は、前屈四五度、後屈二五度、右、左屈各四〇度、右、左回旋各三五度であつて、成立に争いのない乙第四号証によれば、右機能は、後屈を除き、その余はほぼ正常値の範囲内にあること、原告本人も、右運動機能については事故前とそれほど変化はない旨供述していること、が認められる。

ところで、原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記後遺症のため、重い物を持つと背骨に痛みを覚えるため、片手で持てる位いの物が限度であること、また長時間(一時間程度)、同じ姿勢を保つとか、歩くとかすると背骨に負担がかかるが、体を動かしたり、自らマツサージをしたり、或は休けいをしたりすると、元に戻ること、しかしながら、この程度を越えると、背骨や腰が痛み、足が痺れだし、立つていられない状態になること、このため、長時間歩かなければならないときは自動車を運転していること、ところで原告は、現在熊本商科大学商学部に在学中で、昭和六〇年三月に卒業が見込まれていることがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、特段の事情のない限り、原告は将来事務係の仕事に従事する蓋然性が強いこと、そうすれば、右後遺症はそれ程仕事に支障をきたすとは思われず、右事実に原告の年齢を勘案すれば、原告の右後遺症による労働能力喪失の率はせいぜい一五パーセント、その期間は九年とみれば十分であろう。

(三)  原告の収入

原告は、大学卒業後の昭和六〇年から稼働するので、その収入は昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計大卒者の平均賃金によるのが相当であるところ、右によれば、原告の年収は四三六万六、四〇〇円となる。

(四)  労働能力喪失期間(稼働時以降五年間)のホフマン係数四・三六四三

(五)  計算

436万6,400×0.15×4.3643=285万8,441円

5  慰藉料 四四〇万円

原告の傷害、後遺症の部位、程度、入通院期間を考慮すれば、傷害分二〇〇万円、後遺症分二四〇万円が相当である。

6  弁護士費用 二〇万円

後記認容額、事案の難易等を考慮すれば二〇万円が相当である。

四  好意同乗

原告及び被告末利各本人尋問の結果によれば、原告と被告末利とは昭和五二年頃に知り合つたものであるが、事故当時は、山田浩、上土井の四人のグループで、殆ど毎土曜日ドライブをしていたこと、事故当日も、前日(土曜日)夕方六時頃からの引き続いてのドライブであり、同日午前零時過ぎ頃被告末利が事故車を運転(もつとも三角港までは山田が運転)し、助手席に山田、後部座席右側に原告、左側に上土井がそれぞれ乗車し、天草方面にドライブ、午前三時頃五号橋から折り返したが、この頃は山田、上土井は既に居眠り、原告もうとうとしていたこと、ところで被告末利は一号橋手前で睡魔におそわれたため、一号橋を渡つたところの広場で暫く休憩して仮眠しようとしたが、眠ることができなかつたこと、この時は他の三名は既に眠っていたこと、そこで被告末利は、眠気がとれないまま、事故車を運転し、本件事故を惹起したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告は好意同乗者であり、しかも深夜ドライブの共同計画者であり、かつドライブの帰途には、自らも睡魔におそわれ、眠つてしまつているのであるから、運転手にとつても同様眠たくなつていることは十分認識し得べきであつたのに、被告末利に対し、運転の中止等何ら注意を与えなかつたことには問題があるというべきである。しかし、被告末利においても、一度は仮眠のため休憩しながら、十分眠気のとれないまま運転を再開したことはやはり看過することができないというべきであり、これらの事情を比較検討すると、原告の右好意同乗については、少なくとも前記損害額から三割を減ずるのが相当である。

五  損害の填補

叙上によれば、原告が、被告末利に求め得る損害額は、前記四の1ないし5の損害額合計の七割に相当する六一八万〇、七九〇円となるところ、原告は右損害の填補として既に自賠責保険から一二〇万円、社会保険事務所から一八万二、三二四円、被告らから四三万二、二三六円の支払いを受けたことを自認するほか、成立に争いのない乙第二号証、同第三号証の一、二によれば、更に自賠責保険から二九九万円の支払いを受けたことが認められるので、上記損害額から右填補額を控除した額一三七万六、二三〇円に前記三の6の弁護士費用二〇万円を加算した一五七万六、二三〇円が、本訴において、原告が被告に請求し得る損害額となる。

六  結び

以上によれば、原告の本訴請求は、被告末利に対し、一五七万六、二三〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年九月二日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、これを認容するが、被告末利に対するその余の請求及び被告長義に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 最上侃二)

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